未来の価値

第 9 話


自室の狭いベッド。
背中にはすやすやと眠る皇族。
自分はひたすらタヌキ寝入り。
身動きも取れない。
そんなよく解らない状況に陥ったスザクは、心の中で深くため息を吐いた。
毛布を顔に掛けているのは流石に息苦しくなり、自由のきく手をゆっくりと動かし、視界を覆っていた毛布を下ろす。
何でこんなことに、と考えても仕方がない。
どうせ暇なら、後ろにいるのがどんな人物か考えてみることにした。
皇族服が綺麗にハンガーに掛けられている様子から、性格は几帳面だと思われる。
腕の感じから太ってはいない、寧ろ痩せた体系だと解るし、腕の長さや歩いた時の歩幅、そして掛けられた皇族服は黒だが、その作りは若い印象を受けるので、中年以降ということはないだろう。
性別は男。
コーネリア皇女殿下のような例外はあるが、女性の皇族は基本スカートだし、細身ではあるが、その形は間違いなく男物。

・・・想像できるのはこれが限界だった。
他に情報が欲しいところだが、身動きが取れない現状では無理な話だ。
考えることも無くなった頃、音も無く部屋の扉が開いた。
そこにいたのはセシル一人。
ベッドを伺ったセシルは、あからさまに安堵した表情のあと、真剣な表情に改め、足音を立てずに室内へ入ってきた。
みると、靴音が鳴らないようにと、その足は裸足だった。
慎重に歩みを進めたセシルは、ベッドの脇で屈むと、小声で話しかけてきた。

「大丈夫?スザク君」
「大丈夫です」

スザクも小さな声で返す。
幸い殿下には聞こえないらしく、いまだ夢の中だ。
おそらく、室内を確認できない事にいら立った護衛がセシルをよこしたのだろう。
万が一の場合は、自分たちが目撃者となるわけにはいかない。
殿下の怒りを買うだけでは済まないのからだ。
だからあの場で一番立場の低いセシルを生贄にしたのだろう。
護衛も最悪の想像はしているはずで、万が一の時は男同士のあれやこれだというのに、女性を寄越すなんてと思うのだが、ここで文句を言っても始まらない。

「セシルさん、ちなみに何時までこの状態でいればいいんですか?」
「あと1時間半よ」

まだそんなにあるのかという思いと、終わりの時間がちゃんと決まっていた事の安堵で、スザクは小さく息を吐いた。

「何か飲み物とかいる?」
「いえ、それよりもセシルさん、殿下のお名前ですが・・・」

皇族の名前と顔は、はっきり言えば知らない
知っているのは、皇帝シャルル、宰相シュナイゼル、エリア11総督クロヴィス、そして戦女神と称されているコーネリアぐらいだ。
視察に来るのが皇族としか知らされておらず、皇族相手に名前を聞くわけにもいかないから、目を覚ました時に備えて教えてほしいと思ったのだが。

「ごめんなさいねスザク君。殿下に自分のことは何も口にするなと・・・」

眉尻を下げ、謝ってくるセシルに、スザクは再び困惑した。
何も?
何もって、何?
何でそこで緘口令?

「それに、私もお会いするのは初めての御方で、お名前以外は知らないの」

セシルはその辺はしっかりと押さえている人だ。そのセシルが知らないということは、役職についている人物では無いのだろう。
皇族はとにかく多い。
なにせあの皇帝は皇妃を108人も娶っており、子供の人数も17年以上前に二桁を超えていて、皇妃同様3桁を超えていてもおかしくない。そんな皇族全員を把握するのは難しく、なにより役職のない皇族は、表に名前が出てこない。
ルルーシュとナナリーがそうであったように。
そこまで考えて、スザクはあれ?と思った。
そう、ルルーシュとナナリーも元とはいえ皇族だった。
あの戦争で死んだ事にし、身を隠したのだ。

だから、元、皇族。
元、殿下。

だが、スザクはあの日、ルルーシュと再会した。
その後親衛隊に撃たれ、目を覚ました時には軍の医療設備にいた。聞けば運んだのは親衛隊だという。撃った親衛隊が、スザクを救うために施設に運んだという、訳の解らない状態に困惑していると、セシルが迎えに来てランスロットに騎乗した。
その後、時間を作って彼と再会したあの場所へ行くと、テロリストのトラックはもうそこには無かった。軍が回収したのか、テロリストが回収したのかは解らないが、その周辺の床にあった痕跡は1つだけ。スザクが撃たれ、倒れた場所の血痕だけだった。
だから少なくても、ルルーシュはその時は撃たれなかったはずだ。
ではどこへ?
親衛隊が銃口を向けていた、この場所から何処へ。
・・・捕まった?親衛隊に?
・・・捕まる・・・捕虜・・・いや、保護、された・・・?

「スザク君、大丈夫?」

顔色を変え、口を閉ざしたスザクを心配してセシルは声をかけた。

「保護・・・」
「え?」

思わずスザクの口からこぼれた言葉に、セシルは首を傾げた。
保護、元皇族、死亡は嘘で生きていた。
スザクの命を救うには、皇族だと名乗る必要があった?
だから親衛隊がスザクを医療施設へ?
いや、つまり、その生存が知られたのなら・・・
スザクはハッとなり、目を見開くと、勢い良くその体を起こした。

「スザク君!」

殿下が目を覚ましてしまうわ!
慌てたセシルが声をかけるが、気にせず振り返ると背中で眠る皇族を確認した。
その皇族は、流石にスザクが起きたことで目を覚ましたらしく、重たい瞼をこじ開け、眠そうに数度瞬きをした。
枕とシーツに散らばるのは錦糸のような漆黒の髪。
その肌はシミ一つない白磁の肌。
長い睫毛に縁どられたその場所には、アメジストを思わせる瞳。
何よりも、幼いころの面影を残すその容姿。
先日再会したのだから、見間違えるはずもない。

「やっぱりっ!ルルーシュ!!」

スザクは思わず大声でその名を呼んだ。
すると、当のルルーシュは、煩いなと言いたげに柳眉を寄せ、閉じそうになる目をこすった。

そうだ。
よく考えれば解る事だ。
自分に、イレブン相手に警戒心のかけらも無く、こんな事をする皇族。
そして、スザクを驚かせてやろうという悪戯心を持った皇族。
それは最初から幼馴染の二人ぐらいしかいなかったのだ。




バレバレな抱きまくらネタを、ここまで引っ張る意味は特になかったんですけどね。
私が書いた他の話で、ルルーシュはスザクとC.C.に抱きまくら扱いされてるので、逆にスザクを抱きまくら扱いするのもありかなと。

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